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京都地方裁判所 昭和59年(ワ)389号 判決 1985年4月24日

原告

被告

川島浩

ほか一名

主文

一  被告川島浩は原告に対し、金一八二七万四七八〇円及び同金員につき昭和五六年二月二八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告比毛浩二に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用中、原告と被告川島浩との間に生じたものは同被告の負担とし、原告と被告比毛との間に生じたものは原告の負担とする。

四  この判決は一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた判決

一  原告

1  主文一項

2  被告比毛浩二は原告に対し、金一八二七万四七八〇円及び同金員につき昭和五六年二月二八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  被告比毛

1  主文二項同旨

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

次の交通事故により浅田弘一(以下「浅田」ともいう。)は死亡し、谷口功晃(以下「谷口」という。)は受傷した(以下両名を表示する場合は「被害者ら」ともいう。)。

(一) 発生日時 昭和五四年六月五日午後一一時三二分ころ

(二) 発生地 京都市左京区一乗寺青城町八一番地先路上

(三) 事故車両

車種 小型四輪乗用自動車(以下「本件自動車」という)

登録番号 京五六て二七三五

所有者 浅田弘一

運転者 同右

(四) 事故の態様

被告川島浩(以下「被告川島」という。)、同比毛浩二(以下「被告比毛」という。)及び川原行博(以下「川原」といい、三人を表示する場合は「被告ら」という。)は、被害者らに対し、刃渡り約二〇センチメートルの刃物等で脅して同人らを畏怖させたうえ、浅田に運転を強要し、同人の畏怖等からの運転操作の過誤により本件自動車を民家の塀に激突させた。

(五) 結果

浅田は肺挫傷により昭和五四年六月六日午前零時二〇分ころ死亡した。

谷口は右鎖骨々折、頭部打撲、腰部打撲傷により昭和五四年六月五日から同年九月七日まで治療を受けた。

2  被告両名の責任

(一) 被告らは、須藤賢治(以下「須藤」という。)及び山本雅美(以下「山本」という。)と共謀し、被害者らに対し、刃渡り約二〇センチメートルの刃物等で脅して同人らを畏怖させたうえ、「比叡山へ連れて行け」と申し向けて同人らを浅田所有の本件自動車に押し込み、被告川島において同車の助手席に乗車して浅田に対し、右刃物を突きつけて本件自動車の運転を強要し、被告比毛、川原、須藤及び山本らにおいて本件自動車を先導したものである。

すると、被告川島は浅田に対し刃物を突きつけて本件自動車の運行を強要したものであるから本件自動車の運行を事実上支配管理していたものであり、また、被告比毛も同川島と共謀して、本件自動車を先導していたのであるから、本件自動車の運行について指示、制禦をなし得べき地位、すなわち、支配管理し得る地位にあつたのである。従つて、被告両名は、本件自動車の運行について自賠法三条の運行供用者としての責任がある。

(二) 仮に、被告比毛につき自賠法三条の責任が問い得ないとしても、被告川島が右責任を負うべきはいうまでもないところ、被告比毛は、同川島の意図を十分に承知しながら、それに共同加功ないし幇助したものとし、民法七一九条一項ないし同二項の責任を免れない。

3  損害

本件事故により被害者らは少なくとも次のとおりの額以上の損害を被つた。

(一) 浅田及びその相続関係

(1) 死亡に至るまでの傷害による損害

(イ) 治療費 金三万〇七八〇円

昭和五四年六月五日根本病院に入院中の治療費

(ロ) 文書料 金八三〇〇円

右病院から交付を受けた診断書、明細書、死亡診断書及び事故証明書各一通

(2) 死亡による損害

(イ) 葬儀費 金三五万円

(ロ) 逸失利益 金一五四二万六〇二八円

月収 年齢別平均給与月額表(男子一八歳)より月額一〇万五三〇〇円、生活費控除 一〇〇分の五〇、就労可能年数に対する新ホフマン係数 二四・四一六

右の計算式

105,300×12×50/100×24,416=15,426,028

(ハ) 慰謝料 金六〇〇万円

計 金二一八一万五一〇八円

(3) 相続

浅田の父浅田眞三及び母浅田美枝子は、相続により浅田の権利義務を承継した。

(二) 谷口関係

(1) 傷害による損害

(イ) 治療費 金四三万三〇八〇円

昭和五四年六月五日に桑田病院、同年六月六日に西京病院に入院中の治療費

(ロ) 文書料 金六七〇〇円

右病院から交付を受けた診断書、明細書、事故証明書各一通

(ハ) 看護費 金一万九六〇〇円

右病院の付き添い看護七日間にてん補基準による日額二八〇〇円を乗じた額

(ニ) 雑費 金一万三五〇〇円

(ホ) 休業補償費 金一三万二〇〇〇円

(ヘ) 慰謝料 金二四万六四〇〇円

計 金八五万一二八〇円

4  原告の損害金填補

原告(所管庁運輸省自動車局)の自賠法による保障事実の業務委託会社たる日本海上火災保険株式会社は、昭和五六年一月二六日浅田の相続人に対し及び同月二七日谷口に対し自賠法七二条一項に基づき、前記3の損害のうち合計金一八二七万四七八〇円の損害金をてん補した結果、原告は、同法七六条一項に基づき右てん補額を限度として被害者らが被告らに対して有する損害賠償請求権を取得した。

5  結論

よつて、原告は被告両名に対して、各金一八二七万四七八〇円及びこれに対する右保険会社が被害者らに支払つた日の翌日以降の日である昭和五六年二月二八日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告川島

被告川島は、公示送達による適式の呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を陳述しない。

三  被告比毛の答弁

1  請求原因1(事故の発生)のうち、事故の態様の被告比毛に関する部分を否認し、その余の事故の態様は知らず、その余の事実は認める。

2  同2(被告両名の責任)のうち、被告此毛に関する事実を否認し、主張を争う。

3  同3(損害)のうち、浅田の父母が相続により浅田の権利義務を承縦したことは認めるが、その余の事実は知らない。

4  同4(原告の損害金填補)の事実は知らず、主張は争う。

第三証拠

証拠関係は、書証目録及び証人等目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  昭和五四年六月五日午後一一時三二分ころ、京都市左京区一乗寺青城町八一番地先路上において、浅田運転の本件自動車の事故により、浅田が肺挫傷により同六日午前零時二〇分ころ死亡し、同乗の谷口が右鎖骨々折、頭部打撲、腰部打撲傷により同年六月五日から同年九月七日まで治療を受けたこと、以上の事実は原告と被告比毛との間では争がなく、被告川島との関係では、弁論の全趣旨により右事実を認めることができる。

そして、原告と被告比毛の間では成立に争がなく、被告川島との関係では、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第三〇ないし第三七号証、同乙第一ないし第八号証(第六号証のうち後記措信しない部分を除く)に、被告比毛本人尋問の結果を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  被告比毛は、昭和五四年六月四日夜、京都市左京区一乗寺付近の喫茶店「ルーブル」へ、所有の普通乗用自動車「セリカ」で乗りつけていたところ、面識もなかつた川原から「お前らどこに行くのや。暇やろう。送つてくれ。」と凄まれて、恐怖心から言われるままに同人と被告川島を同乗させた。そして、被告比毛は、その送つて行つた先で、川原らの仲間である須藤とも面識ができた。

2  被告比毛は、翌六月五日午後二時頃、勤務先を探して来た須藤に請われて、恐怖心から所有の「セリカ」を貸したところ、それが切掛けとなり同夜「セリカ」を返して貰いたいばかりに、しかも恐しくてそれを言い出せないまま、同人、川原及び被告川島らとずるずると付き合う破目になつた。すなわち、被告比毛は、同日午後五時二〇分頃須藤からの連絡により、「セリカ」をすぐ返して貰えるものと信じ、作業服のままで指定の場所に赴いたところ、須藤のほか川原及び被告川島らがいて、川原から「付き合え」などと言われ、因縁をつけられるのが恐く、仕方なくこれに従うことにした。被告川島らは、金策のため心当りを「セリカ」で乗り廻したものの目的を達し得ず、同日午後一一時二〇分頃、前記「ルーブル」に立ち寄つた。その際、「ルーブル」の駐車場に浅田が本件自動車を駐車し、谷口ほか一名と同車内にいたところ、須藤、川原及び被告川島は共謀のうえ、右浅田らから金員を喝取しようと企て、まず川原が同人らに話しかけて組みし易しとみてとるや、「金を貸してくれ」と持ちかけ、そのうち被告川島も同人らに脅し文句を並べると共に、刃体の長さ約二一・四センチメートルの小刀をちらつかせ、要求に応じないと同人らの生命、身体に危害を加えかねない気勢を示して、同人らを畏怖させたうえ、同被告が本件自動車の助手席に乗り込み、浅田に命じて本件自動車を運行させ(谷口ほか一名が同乗)、須藤や被告比毛が乗つた「セリカ」を川原が運転して追尾した。ところが、途中で浅田は、「セリカ」を遺り過しておいて、被告川島らの指示に反した進路をとつて逃走を図るとともに、車内で谷口ほか一名と協力し、被告川島の小刀を取り上げて同被告を制圧すべく揉み合ううち運転を誤り、付近の民家のコンクリート塀に本件自動車を激突させ、前記のとおり浅田死亡、谷口受傷の結果をみた。

以上の事実を認めることができ、この認定に反する乙第六号証の記載部分は採用できず、他に右認定に反する証拠はない。

なお、右事件の推移に対する被告比毛の関与の態様及び程度であるが、前掲甲第三〇号証、同第三三ないし第三五号証、同乙第一ないし第五号証(第五号証のうち後記措信しない部分を除く)、同第八号証に、被告比毛本人尋問の結果によると、被告比毛は、被告川島らが被害者を脅している最中に、川原の指示で本件自動車の後部座席に一旦乗つたが、間もなく川原か被告川島の指示で「セリカ」に移つたこと、本件自動車と共に他の場所に移動する途中、被告比毛は、川原が闘争に使用する意図で命じていることを承知のうえで、「セリカ」から降りてコカ・コーラの瓶四本を車内に持ち込んだこと、以上の事実を認めることができ、この認定に反する乙第五号証の記載部分は措信できず、他に右認定に反する証拠はない。

二  そこで、被告両名の責任につき検討する。

1  被告川島は、本件自動車に乗り込み、浅田の意思を制圧して意のままに運転させていたのであり、本件事故の発生までにその状態は排除されなかつたというべきであるから、本件自動車を自己の意のままに支配していた者として、本件事故につき運行供用者責任を負うというべきである。

2  被告比毛の立場は、さきに認定した事実によれば、外観的には被告川島らの行為につき幇助の役割を果していることは否定できない。しかし、被告比毛は、被告川島、川原及び須藤に対する恐怖心から意思を制圧され、同人らの意のままに動いていたに過ぎないと評するのが相当であるから、故意はもとより、未だ過失の容態をも推認するに足りないというべきである。

そうだとすれば、被告比毛につき運行供用者を含めてその責任を問う原告の主張は、いずれも理由がないことに帰する。

三  よつて、被告川島の関係で以下検討する。

弁論の全趣旨で真正に成立したと認める甲第六ないし第八号証、同第一一ないし第一九号証、同第二一号証、同第二三、第二四号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第九、第一〇号証、同第二〇号証、同第二二号証並びに弁論の全趣旨を総合すると、請求原因3、4の事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

四  すると、原告の被告川島に対する請求は理由があるからこれを認容するが、被告比毛に対する請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 石田眞)

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